「今度釣りに行く。鯵が釣れるらしいんだけど、それ持って帰ってきていい?」
と次男に尋ねられた時、わたしはギクッとした。
魚をさばけない。
長年台所で食事を作り続けている身であるから、一度もやったことがないわけではないのだが、長年、静かに避け続けてきた。いつかやろう、いつかできるようになろう、あわよくば得意だといえるくらいになりたいな、などと、ずっと寝ぼけたことを唱えながら、気が付いたら還暦だった。
ああ、なんて、情けない人生なのだろうか、、、。
「え?釣れるの?」
と、焦点をそらして難局を押し戻そうとする。
「結構釣れるらしいんだよ。」
でも、もしかしたら不漁かもしれない。何とか逃げようとする。
しかし、せっかくのイベントの収穫物を歓迎しないなんて、親として絶対できない。これが最後の息子孝行かもしれないし。出刃包丁はあったはずだ。
「うん。わかった。なんとかする。」
そして当日。午前十時半ごろ息子からLINEが来た。
『アジが10匹ぐらい釣れました。』
あらあらたいへん。どうしましょう。
そこでようやく、わたしはYouTubeで勉強しようと思って調べ始めた。昔の料理本とちがって、わかりやすいのなんの。百聞は一見に如かず。しかし、見てわかったように思えても、実際できるかどうかは別問題なのである。さすがにそれくらいは、理解しているわたしであった。